森本あんり『反知性主義――アメリカが生んだ「熱病」の正体』新潮選書, 東京: 新潮社, 2015年, p.79
「加えてここには、歴史の『証人』となるとはどういうことか、という本質的な問いが浮かび上がっている。出来事の報告者たちがその出来事の登場人物でもある、ということは、実はすべての真正な歴史証言に必須の事態である。なぜなら、証人であるということの中には、当事者であるということが含まれるからである。誰も、第三者を介して知ったことを『証言』することはできない。歴史の証言者は、常に自分が証言しようとする出来事の一部である。目撃した出来事を、自分がそこに居合わせ、気がついた時にはすでに自分も否応なくそれに巻き込まれていたところの出来事として語るのが、『証言者となる』ことの本質である。したがって、物語る証言者は、必ずその物語中の登場人物でもある。その『出来事内在性』が、証言者に証言者たる資格を与えるのである。証言者は、自分を語ることなくして歴史を証言することはできない。歴史はすべて、誰かによって語られた歴史なのである」