金子 晴勇『「愛の秩序」の思想史的研究』岡山大学文学部研究叢書; 5, 岡山: 岡山大学文学部, 1990年, p.148
「ルターが諸身分が神により創始されたのは『神と世界に奉仕するため』(WA. 30 II, 598, 33)とみていることから、また兵士の身分について『それは愛の律法に発源する職業である』(WA. 19, 657, 26)、つまり隣人に奉仕するためだと言っているゆえ、何が正当な身分であり、何がそうでないかの判断の基準が同時に与えられている。したがって神の意に反する、罪となる身分もあることになる。こうして存続すべき秩序からの批判に諸身分はさらされているわけである。これらの身分は職分と等しく、人は複数の身分をもち、多くの社会関係の中に生きている。したがって、各人はそれぞれの身分にあって神と人とに奉仕すべきであり、その職分の遂行により、神の意志を具体的に実現すべきである。こうして身分は職業と同じ意味をもち、プロテスタントの倫理がここから形成されてくる。
したがって倫理は人格として自己完成におかれているのではなく、人間が自由と愛とをもって肯定すべき神の秩序にたいする服従である。というのは、律法は生の形式ではなく、生の秩序としてキリスト者に対してもなお意義をもっているからである。この秩序は神からの所与であり、この根源的な人間関係を理性によって追求すべきなのであって、近代の社会契約説のように理性によって作りあげるべきものではない。したがって統治者の階級や父長、男と女、親子の関係は神から与えられた人倫の基礎として理性により探究され、決断的にその真の姿に向かって形成されなければならない。人間社会の諸関係は本来的な秩序からの呼びかけとして私たちに迫って来ており、社会における『諸秩序』(ordines)は神のもとにある『秩序』(ordo)へ向かって私たちの決断を求めているといえよう。これがルターによって再建されたと考えられる『愛の秩序』の思想ではなかろうか」